前回質問への回答という形で記事を上げさせていただきましたが、
それについて追加のご質問をいただきました。
ありがとうございます!
管理人様、およびコメント欄で回答してくださった皆様、丁寧なご回答ありがとうございます。
なるほど、「ここ20年でネットプレーヤーがトップレベルから消えた」ことによって
「ストローカーVSネットプレーヤー」という構図から
「クレーが得意なストローカーVSグラスが得意なストローカー」に変わった。
そして、マレーは後者のタイプである、と。
これはテニス観戦素人の自分からは出てこない発想でした。
ところで、回答文の中でひとつ気になった箇所があります。
それは、「(トップレベルからネットプレーヤーが消えた)理由は、コートの変化、ラケットの変化、ボールの変化、そしてプレイヤーの変化など様々に言われますが、‥‥」の部分です。
以前、どこかで見た事があるのですが、「ラケットの進歩によって、昔は相手コートに返すのがやっとだったのでボレーで簡単に処理されていたリターンもそこそこ強い打球が打てるようになり、サーバー側の有利が減少した。」と書いてあって、「これっておかしくない?」と思いました。
確かにラケットが進歩すれば良いリターンが打ちやすくなるでしょうが、相手も同じ様なラケットを使っているのだから、当然相手も良いサーブを打ってくるわけですよね。
ましてや、ラケットに当てることすらできない高速サーブを打たれたら、こちらはラケットの進歩の恩恵すら受けられないことになり、むしろ「ラケットの進歩はサーバー側に有利に働いているのではないか」と思いました。
「ラケットの変化はサーバー側に有利だけど、ボール、コート、主流のプレースタイルの変化はリターナー側に有利だから、これらの変化は総合的にはリターナー側に有利」と言うならまだ分かりますが、「ラケットの変化それ自体がリターナー側に有利」と言われてもどうも納得できません。これは一体どういう理屈なんでしょうか?
追加の質問になってしまいますが、以前から疑問に思っていたので質問させて頂きました。
以上が追加のご質問です。
回答の中で、グラスコートでストローカー有利となった背景の一つとして「ラケットの進化」を上げましたが、
ラケットの進化はサーブ側にも有利になっているはずで、ストローカー有利の要因にはなってないのではないかということになるかと思います。
もっともなご意見である上に、更にはとても鋭いご指摘とも言えます。
ご自身で「テニス観戦素人」と言われてますが、とてもそうとは思えない見識です。
頑張って回答させていただきます。
細かく分析していくと色々と複雑になってきますのでここではある程度分類を明確にしておきたいと思います。
サーブ&ボレー vs リターン&ストローク という図式で話をしていきます。
まずご指摘の通り、ラケットの進化はストローク側だけでなくサーブ側にも有利に働いているのは間違いありません。
カルロビッチ、イズナー、ラオニッチ、オペルカといった近年の超強力サーバーは
かつて存在したビッグサーバーとは次元の違うサーブパフォーマンスを見せています。
これらの選手はラケットの進化を最大限サーブに活かした選手と言っていいと思います。
その一方でストローク側も大きくパフォーマンスを上げており、
事実上この20年間で芝生のコートを支配しているのは完全にストローカーとなっています。
実際のところラケットの進化がストローク側にもたらした効果は大きく、
簡単に結論を言ってしまうと、ラケットの進化がサーブ&ボレー側にもたらした効果を
ラケットの進化がリターン&ストローク側にもたらした効果が上回った結果だと考えています。
ラケットの進化と一言で言っても、専門的には複雑な内容がおそらく沢山あって
素材とか、形状とか、ガットと、かもうあらゆる要素が関係しているのだと思います。
さすがに細かすぎるとよくわからないので、ざっくり、ものすごくざっくりですが、
私の思うラケットの進化を上げると、以下の2点に集約されるかと思います。
・パワーの向上
・精度の向上
まずパワーですが、軽量化によって単純に振り回しやすくなったというにとどまらず
素材の発達などでより強い力が加えられるようになりました。
サーブとリターンを比較しますと、もちろん両方に影響がありますが、
ことパワーに限ればサーブ側への効果の方が高いと思います。
テニスでは、サーブはリターンよりも遥かに強いショットですので
単純なパワー向上ということであればサーブへの恩恵の方が高いのは間違いありません。
サーブとリターンを比べると効果は「サーブ>リターン」となります。
一方で、ボレーとストロークの比較になると、話は逆転します。
ボレーはそもそも強くボールを打つショットではないためパワー向上の恩恵はそこまで高くなく
それに対するストローク側は、より強いパスが打てるようになるため対ボレーのショットが有効になります。
つまり「ボレー<ストローク」となるわけです。
パワーの面だけ見ても、サーブは有利になっていても、
ボレーは有利になってないというのが伺えると思います。
続いて精度の向上です。
こちらはスイートスポットが拡大したり、軽量化や素材の変化で取り回しがきくようになったことで
古いラケットではきちんと真ん中に当てなければミスショットになっていたところが
進化したラケットでは正確な球として打つことができるようになったという効果になります。
この効果はサーブにおいても一定の恩恵はあるでしょうが、
そもそもサーブは自分から打ち始めるものであり、ミスが多く出る前提のショットではないため、
パワーでの効果に比べれば、遠くの球に飛びついたり、打ちにくい体制で返球したり
といったことが必要になるリターンでの効果に比べれば薄いように思います。
すなわち精度向上の効果は「サーブ<リターン」と考えられます。
サーブに比べると、精度の向上がボレーにもたらす恩恵は大きいと思います。
ボレーでは、遠くの球に飛びついたり、返球しにくい体制で対応するということが多く発生します。
しかし、それはストローク側での効果の高さと恩恵の大きさは同じくらいだといえますので、
ここでは「ボレー=ストローク」と考えられます。
まとめますと、ラケットの進化という観点においては
サーブにもたらした効果はあるものの、ボレーにもたらした効果が大きくないという理由から
サーブ&ボレーヤーが消滅してしまってた、と言っていいのではないかと思います。
簡単な結論は以上なのですが、少し追加でトピックを取り上げさせていただきます。
それは「回転数の向上」です。
ラケットの進化が及ぼした効果の中にこの回転数の向上というのもあります。
先ほどリストアップした「パワーの向上」と「精度の向上」の副次的な効果と言えるのですが
すなわちラケットが取り回しやすくなるとボールに多くの回転がかけられるようになります。
テニスにおいて回転というのは重要です、
同じスピードの球でも多くの回転がかかっているボールはより重くなります。
ボールの威力というのはスピード+回転と言えるわけで
回転がかけられるというのは「パワーの向上」に直結していると言えます。
また、ボールに多彩な回転がかけられると、
直線的なボールに比べてより広範囲に球が打てるようになります。
より打てる範囲が広くなるということはミスが減ることにもつながりますので
「精度の向上」にもつながってくる部分と言って良いかと思います。
以前イギリスのどこかの記事でも
今回と同じようにサーブ&ボレーがいなくなった理由という特集をやっていたのですが
その時にはシンプルに結論を回転数が向上したから、としていました。
これも主にサーブとリターンの比較ではなく、ストロークとボレーの比較という焦点で語られていて、
近年の回転の多いパスに対しては、ボレーは押し込まれてしまい、
以前のようなコントロールショットができなくなってしまっているというのと、
回転をかけることでストローク側の打てる範囲が広がったため
ボレーヤーがコートをカバーしきれなくなっているとされていました。
以上が、私が思う、ラケットの進化が及ぼしたサーブ&ボレーヤー減少の理由となります。
またしても長々とした文章で恐縮ですが少しでも参考にしていただければ幸いです。
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- 2023/06/28(水) 12:08:35|
- 雑記
-
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-
| コメント:8
私もリターンの『精度』すなわちスイートスポット拡大、および外した時でも入りやすくなってるラケットの性能向上は大きいと思います。
サーブはプロなので基本ピンポイントで外さないですからね。
昔、それこそサンプラス全盛のときは当たってもコートに入らないことがよく見られましたが、最近は減った印象です。
ウィンブルドンでフェデラーサーブをことごとく深く返したジョコビッチのハンドアイコーディネーションの良さも、異常ですけどね。
そこはトレーニングの進化もあるんでしょうけど。
トレーニングの進化といえば、少し本筋から外れますが、フットワーク向上もリターナー有利に働いてると思います。
ヒューイットにパワーおよびスピードを加えたナダルが出てきて、ジョコビッチやマレーもそのレベルに追いついた気がします。
そういう意味でもフェデラー氏がテニスレベルを引き上げたんでしょうね。
- URL |
- 2023/06/29(木) 14:50:30 |
- ATPウォッチャー #-
- [ 編集]
皆さま、コメントありがとうございます。
本格的なネットプレーヤーが絶えて久しいですが、
今の選手たちは過去のストローカーと比べても流れの中で柔軟にネットを取りに行きますし、
またボレーのスキル自体はかなり高いものあると感じさせます。
今は、クレッシーに注目ですね。
久しぶりに出てきた本格的なボレーヤーといえます。トップ選手ではズベレフ兄以来でしょうか。
(他にいたかもしれないですが失念していたらすいません)
ミーシャ・ズベレフのシングルス最高位は25位で、クレッシーは33位なので
まだもう少し頑張って20位以内に入ってくれるとボレーヤーの復権の足掛かりにもなってくれるかもしれません。
- URL |
- 2023/07/03(月) 10:23:06 |
- Au-Saga #3/VKSDZ2
- [ 編集]
ご回答ありがとうございます。
サーバー側の有利が減少した一番の原因は、ボレーの相対的な弱体化なのですね。
簡単にポイントを取れるショットが無いとラリーが長引き、結果的に先攻の利が薄れてしまいますからね。
テニス観戦歴は、初めて観た試合が2008年ウィンブルドン決勝なので15年程ですが、
試合数では10試合位なので、実質最近観始めた人とほぼ同じです(笑)。
そのウィンブルドンの当時高校生だった私は自分のテレビを持っておらず、リビングで部屋の電気を消しヘッドホンを着けて観戦していたのですが、隣の部屋で寝ていた母に「テレビの光が漏れて眩しい」と何度も怒鳴られて、第3セットのサスペンデッドでさすがに限界を感じ就寝しました。翌朝「どうせナダルがストレートで勝っただろ」と思って新聞を見たら驚いた事を覚えています。
- URL |
- 2023/07/04(火) 14:19:16 |
- ネットプレーヤー応援隊長 #-
- [ 編集]
>ネットプレーヤー応援隊長様
ありがとうございます。
初めての観戦が2008年WB決勝とは実に素晴らしい体験です。
私も、いまだにどれか一つだけ最高の試合を上げろと言われたらこれになると思います。
もちろん他にも迷いはする良い試合はあるのですが。
惜しむらくは最後まで全て生で観られたらというところでしたね。
第4~5セットはタイブレークで、1ポイント1ポイントがハラハラでしたから。
- URL |
- 2023/07/04(火) 16:11:57 |
- Au-Saga #3/VKSDZ2
- [ 編集]
ウィンブルドン2008決勝は、内容的にも歴史的にもベストな感じがしますね。
フェデラーその年不調で全仏の厳しい敗戦もありながら、芝の王者の意地で取り返したのが忘れられません。
振り返ればフェデラーの歴史的な名試合って、最終的には負けてるというかファンにとってはheartbrokenな試合が多い気がします。
2008WB決勝
2009全豪決勝
2010全米準決勝
2011全米準決勝
2014WB決勝
2019WB決勝
あれ?
相手はやっぱりフルセット&接戦にも異様に強いあの2人か。
そういうことか。。
それだけに2017全豪決勝は珠玉の一勝ですね。
2007WB決勝も素晴らしかったです。
- URL |
- 2023/07/04(火) 21:19:11 |
- ATPウォッチャー #-
- [ 編集]